
世の中の研究者や、熟練の医師は日々新しい治療法がないか、もっと良い診断方法や治療法がないかなどに人生を捧げており、それらの叡智の集合体が「診療ガイドライン」である、と自分は考えています。便秘、脳梗塞、喘息、心不全などなど多くの病気に診療ガイドラインが存在し、基本的に自分も含めた一般的な医師はガイドラインが推奨する診断や治療の方法を参考に診療を進めています。時に「マニュアル」など揶揄されることもありますが、前述の通り先人達が積み重ねてきた知見であり、むしろ「定石」や「必勝パターン」などの概念の方が近いと自身は考えており、良い結果を得られる可能性が一番高い方法を模索するための重要なツールと考えています。
さて、自分にとってのいわば「頭痛外来Ver1.0」は、原則的にガイドライン通りにすることでした。流石に「定石」だけあって、処方した薬で「良くなりました!」と笑顔になってくださった患者さんも少なからずおられ、先人達の教えに頭が下がる思いです。
一方、ガイドラインを参考に医学的に最適な治療を提供するだけでは、解決しがたい問題があることも経験することになりました。そのひとつが運転です。

薬にもよりますが、脳神経内科で処方する薬の添付文書には、「眠気などをきたすことがあるので、この薬を飲んでいる患者さんには、自動車の運転や危険な行動をさせないように注意すること」といった記載があることが多いです。日本語的に、副作用が無ければ運転しても良いのでは?とも一瞬考えますが、文脈的には「副作用が出ていなくても出るかもしれないから、とにかくこの薬を飲んでいる時点で運転はダメ」と捉えるべきと思います。
そこで、前述のガイドラインで推奨されている薬の多くが(実際に眠気などの副作用が医師の経験上多くなくても)添付文書上は運転禁止であることが問題となります。”頭痛があるものの生活のために運転せざるを得ない!”という患者さんは、どうすれば良いのでしょうか。

そこで当院ではその問題にも対応できるよう、運転禁止かどうかの観点から頭痛薬を分類しており、患者さんの生活に応じて処方をする方針としています。漢方薬であったり、ガイドラインではデータが多くはない薬も含まれることにはなり、何度か通院いただいて合う薬を探すことにもなるかと思われますが、その点はご協力をいただきたいです。ちなみに、2021年以降新しく登場した片頭痛の注射薬は現段階では運転禁止ではないため、有効な選択肢になりえます。ガイドラインに即した診療の次の段階として、運転など社会的な要素も加味した診療、すなわち「頭痛外来Ver2.0」を目指しております。ご興味のある方は一度ご連絡ください。